先週、京都の龍谷大学で仏教と西洋思想のシンポジウムに出席した。
坂部 恵[さかべ めぐむ]
先週、京都の龍谷大学で仏教と西洋思想のシンポジウムに出席した。参加者はアメリカ側からハーヴァード大学とスタンフォードの大学の仏教研究専門家が計3人、日本側から立川武蔵氏(仏教哲学)、大橋良介氏(哲学・美学)とわたくし、それにオーガナイザーとしてデニス・ヒロタ氏(仏教哲学・真宗学)。
7人で円卓を囲んで、各自が順番に報告し2日間じっくり話し合ったのだが、アメリカのハイ・インテレクチュアルズとの対話は例になく刺激的なものだった。
彼ら彼女らが、ハイデッガー、レヴィナス、リクール、マリオンといった現代ヨーロッパの代表的思想家の所説を用いて仏教思想を解釈する方向を探ったのにたいして、日本側は、井上円了、雪舟、金春禅竹等々を材料に西洋思想との対質を試みた。つまり、日本側のほうがいってみればいくらか時代を遡ってより低く構えたのである。
わたくしは密教とビザンツの東方キリスト教哲学の酷似と、相互影響の可能性すら考えられることを述べたりもした。双方の思考の間のねじれは、しかし、その場に居合わせたものにとっては至極自然なものであり、ようやく相互の交流が地についてきたことを思わせるものだった。
西は「有の文化」、東は「無の文化」というようなステレオタイプをはなれて、むしろ時代を通して共通に通い合うもののほうを大切にしたいという姿勢は、一筋の希望を抱かせるのに十分なものとわたくしにはおもわれた。
7人で円卓を囲んで、各自が順番に報告し2日間じっくり話し合ったのだが、アメリカのハイ・インテレクチュアルズとの対話は例になく刺激的なものだった。
彼ら彼女らが、ハイデッガー、レヴィナス、リクール、マリオンといった現代ヨーロッパの代表的思想家の所説を用いて仏教思想を解釈する方向を探ったのにたいして、日本側は、井上円了、雪舟、金春禅竹等々を材料に西洋思想との対質を試みた。つまり、日本側のほうがいってみればいくらか時代を遡ってより低く構えたのである。
わたくしは密教とビザンツの東方キリスト教哲学の酷似と、相互影響の可能性すら考えられることを述べたりもした。双方の思考の間のねじれは、しかし、その場に居合わせたものにとっては至極自然なものであり、ようやく相互の交流が地についてきたことを思わせるものだった。
西は「有の文化」、東は「無の文化」というようなステレオタイプをはなれて、むしろ時代を通して共通に通い合うもののほうを大切にしたいという姿勢は、一筋の希望を抱かせるのに十分なものとわたくしにはおもわれた。
プロフィール
1936年生まれ。
東京大学大学院哲学科修了。
東京大学名誉教授。
哲学・芸術・文学など諸領域を横断する斬新な発想と,
独特の繊細な文体で注目を集めてきた。
主な著書
『仮面の解釈学』(東京大学出版会)
『カント』(講談社)
『和辻哲郎』(岩波書店=サントリー学芸賞受賞)
『鏡の中の日本語』(筑摩書房)
『坂部恵集』(岩波書店,全5巻)
編訳書に『カント全集』(岩波書店)など多数。