星 の て が み

呼 吸 す る 空 間

鎌田 恵務
 

昨年末、東京汐留に在るオフィスを訪ねました。巨大建築の林立する中でも、 ひと際、
威風堂々とそびえ立つビルに足を踏み入れたのですが、そのビルの、 まるで入国審査を
思わせるかのようなセキュリティの充実ぶりに思わず唖然としてしまいました。

その中でお会いした方は、人と人とを繋ぎ、人との出合いをとても大切にされておられる方です。
しかし、来る者を拒むかのような機能性を追求した究極の建築物の中での日常を思い、
思わず、その方の仕事の困難さを想像してしまいました。

私の幼い頃からの友人に、現在、建築家として活躍している兄弟がいます。
弟の立衛氏の手掛ける住宅は、あえて仕切りを不必要とした空間で構成されており、
一見、とても斬新な印象を受けますが、そこには居住者の温度を大切にした
建物全体の息吹きを感じます。「個」が珍重される今のこの時代に在りながら、
決してその部分ばかりを突出させるのでは無く、一粒の水滴が水面に波紋を拡げてゆくように、
個の主張が、いつしか、その個を包む「環境」までをも配慮した優しい空間が
生み出されているように感じます。

又、兄の大良氏は、昨年、小さな教会を建てました。その教会の内部はもちろんの事、
外部のディティールに至るまで細やかな配慮が感じられ、「コミュニティ」がうたわれながらも、
反って他者を閉ざす空間や施設が増えている中、その地に住む全ての人々を受容するかのような
開かれた印象を受けます。

長年、風雨にさらされたかのような木板を使った外壁には朽ちゆくものの美しさを覚え、
そこには、人の命の時間を超える宗教、民族、思想などの
あらゆる隔たりの枠を取り外したかのような清々しさを覚えます。

私たちを支えるバランスのとれた環境を取り戻すためにも、空間の放つ呼気に包まれ
「呼吸する私たちの姿」を心に刻み、明日へと歩みたいと思います。


◆ 兄弟で活躍されている建築家のホームページはこちら。
  http://www.ryuenishizawa.com

◆ 文中の教会は、静岡市葵区相生町15-1 駿府教会 
   「新建築」2008年11月号に掲載されています。 
     http://www.nszw.com
  
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